設計理論による折り紙の分類

(注:この文章内での「設計」の語は広い意味で使っています。用紙の取り扱い方とでもいいましょうか。羽鳥公士郎さんが「読書ノート『ジョン・ケージ 小鳥たちのために』」で記した「組織化」とも通じるかと思います。)

2003/1/12公開

分類の軸としての設計法

 折り紙作品を、その構造的な特徴によって分類することを考えて、次の5つに分けてみました。

  1. レプタイルによる構成
  2. 折り紙分子による構成
  3. 1、2双方による構成
  4. 1、2どちらにもよらない構成
  5. 1〜4を混合した構成

 1、2は現在ある設計理論の二大柱として、前者が前川淳さんによる折り紙原子論、後者が目黒俊幸さんによる折り紙分子論(のそれぞれ核となる考え方)に相当します。

 具体的な作品を例に挙げると分かりやすいと思います。目黒さんの「翔ぶクワガタムシ」は「2」、前川さんの「悪魔」は「3」ですね。吉野一生さんの「馬」は、基本的にはどちらの方法にもよらないものと考えられるので「4」。そして私の「馬」などは「1」になります。(厳密には、吉野馬も小松馬も部分的に分子を持っているので「5」なのですけれど。)

 「5」の典型例としては、一つの用紙内で異なるレプタイル-分子構造(22.5系と蛇腹系)を同居させる試みなどがあるでしょう。これを積極的に行ってきた作家として川畑文昭さんや神谷哲史さんの名が挙げられるかと思います。

 4の中に独立して扱えるような方法論がまだまだあるかもしれません。思いつくままに挙げてみると例えば半開折りとか‥‥揉み紙なんてのも面白そうです。羽鳥さんが「読書ノート〜」で主張した「紙の厚みや折り目の幅や面の張力や、紙の物理的性質」をメインに組織化するような設計理論というのもどうでしょうか。また、「折り紙分子」も通常想定される少値分子から広げて別の意味付けを与えることも可能でしょう。

 上の分類は、あくまで分かりやすい話をするために「レプタイル」「分子」の2つを中心に据えてみた、ということです。

折り紙的なものへの手がかり

 1=「レプタイルによる構成」、2=「分子による構成」が折り紙設計理論として、折り紙創作に大きな影響を与えたことは周知の事実ですが、それはひとえにこれらの方法論自体が、紙という素材の持つ特性から必然的に導き出されたものであり、逆に、紙という素材を扱うとき創作上の見通しの良さを提供してくれたりと優れた応用性があったからです。

 例えば前川さんの作品に対して「折り紙らしい」「折り紙的な」という評をよく目にしますが、実際「3」の「レプタイル+分子」という構造は、伝承作品のほぼ全てに見られます。これは「折り紙的」なる概念とは何かを考える上でも重要そうです。オリガミ・ツリーなど折り工程との関連からも論じることができるでしょう。

新しい表現への手がかり

 以上のようなことを理解すると、逆に吉野さんの作品が興味深いものに見えてきます。先に述べたように「4」の分類の中にはまだ未知の有力な方法論が存在する可能性があります。吉野さんの作品が生み出される中で、どのような試行錯誤・取捨選択をされてきたか、を考えてみると「吉野流造形法」の極意が分かってくるかもしれません。