カバ / Hippopotamus

2003/1/21公開

カバ

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作品情報

解説

 最初は「イノシシ」を作ろうとしていました。「口を開けたイノシシ」の作品ってカッコイイかなーということで、折ってみようかと。吉野猪を踏まえて、背中にヒダで毛並みを折るなら当然腹割れだろう‥‥ポイントとなるべき口をどうやって折り出そうか?‥‥腹割れの場合、普通は上あごを用紙内部に配置することになりますが、そうすると背中の仕込みも内部なので、用紙効率のバランスが難しくなりそうです。

 そこで下あごを2つに分けて上あごも用紙周辺部から折り出すことにしました。このアイデアは、宮下温さんの「ゴリラの顔」などの作例でおなじみですが(川畑さんのティラノ頭骨もそうでしたっけ?)、いつかやってみたいと思っていたのです。用紙効率を考慮して、背骨を折り本基本形の向きで取る構成にしよう‥‥と「カバ」の核となるプロットは、元々イノシシ向けに用意したものなのでした。

 早速イノシシの顔(と額の毛並み)から始めてみたのですが、これが難航し、とうとうある日、とあるきっかけで、私の中で何かがプツリと途切れてやる気がなくなるという事態に(笑)。ぶっちゃけた話、最初のイメージがちゃんとしてなかったということなんですけれど。

 その後、あまりにやっていることが作品に結実しないことにほとほとあきれてしまい(もう前作から1年半以上経っていました。スランプというやつです)、過去の没作品のリメイクでもと思ったのです。改良ということなら割とすんなり行くかもしれないとの甘い考えからでした。

 過去の没作品を検討して、カバを取り上げることに決めました。『をる』14号に写真掲載された「カバ」はありがたいことに割と好評を得ていて「折り図は?」と尋ねられることもあったのですが、「リス」を作った後の自分にとっては「着眼点は良かったんだけど‥‥」という失敗作でした。特に気になっていたのは顔が実物からかけ離れていることで、その原因は上あごの形につきます。

 じゃあどう直そうかと考えている内に「第2次三角形の形=カバの上あご!!」というビジョン(笑)と共に、脳内折り線バンクから目を折り出すための構造が浮かびました。あ、カバ出来そう。しかもイノシシのアイデアがそのまま使えそう。というわけで、やっぱり「見立て」の瞬間が重要だという話です(この場合たいして独創性のない見立てですが)。

 後は、上あご・目→耳の埋め込み→下あご‥‥といった感じで顔を仕上げました。ある程度作業が進むごとに(記録の意味も込めて)展開図を描き、それを眺めつつアイデアを出し実際に折ってみるという作業の繰り返しです。

 ところで、私のように付加法でボトムアップ式に全体を作っていく場合、対角線対称ではない作品では、カド配置にちょっとした困難が生じます。対角線対称では生じない問題----最終的な用紙形が長方形になってしまうケースがあるからです。「長方形でいいじゃないか」という立場を取らないとすると、体の折り出しを見越しつつ下あごの配置を変えながら作ることになります。『をる』創刊号に掲載された川畑さんの一枚折りの「鹿」のように、一部のカドを内部から折り出しても良いことにしたりすれば、この問題は回避できるのですが、今回は何故か前足を用紙周辺から折ることにこだわっていました。ただ、結果的に後ろ足が内部からの折り出しになったので、あまり意味のないこだわりとなってしまいましたが。

 また、完成した作品は厳密には「12+2√2:9+4√2」という長方形から折るのが最も必然性が高いところを、わずかな不要部分を足して正方形にしていて、この点も不本意と言えば不本意です。しかし、用紙形のなんたるかがかえって浮き彫りとなる格好になったのは面白いかもしれません。

 体の部分はけっこう苦労しました。使える用紙面積が大きく取れなそうだったので、紙を重ねて胴体の強度を上げることが不可能であり、それが旧カバのポイントである重量感とうまく結びつかなかったのが主な理由です。最終的に前作「うさぎ」とも通じる立体化の手法を採用しましたが、ご覧のとおり背中の菱形が妙に気になるデザインになってしまいました。手法としても折り紙というよりペーパークラフト的な匂いがして、顔の満足度と比べればいまひとつです。といってもその時の私には、これ以上の物を作ることが出来なさそうだったので、他の多くの作品と同じく「これはこれで」という“極大”に妥協する形で発表を決めました。基本的な態度として「造形を作り込む」というより「出てきた形を受け入れてしまう」タイプなんですね。

 旧作の課題はそれなりにクリアできて満足もしていますが、新たな問題も抱え込んでしまった感がありました。それはレプタイル構造という縛りがもたらすものであって、展開図の幾何学的調和が折りにくさを生む場合があるという事実です。もうちょっとレプタイル構造の利点を生かした形で作品作りが出来ないかと考えています。

 ちなみに折り図では、あえてこの辺りのジレンマを前面に押し出しています。勿論私もあんなに最初に折り筋をつけなくてはいけないような折り工程はイヤですが、開き直ってイヤな折り図を描きました(イヤな奴)。まあトータルで言うとこれもまた失敗作だったんでしょう‥‥。