ライオン / Lion

2003/1/21公開、2006/1/6解説を追記

ライオン

ライオン

ライオン

ライオン

展開図

解説

 流れとしては前作「カバ」でトライした複雑化の流れを引き継いでいます。培った技術の展開のさせ方が少しずつ分かってくると、それを試してみたくなるのも人情というものです。

 とは言っても、前作から半年以上経っているくらいで、この間はばっちりスランプでした。そこから脱却するきっかけとなったのが、宮島登さんから当時新作の「猫」(とその折り図)を見せてもらったことでした。早速折らせてもらったりして、とても触発されるものを感じ、その後も何匹か宮島猫を折っているうちに、なんとなく“カン”が戻ってきたような気がして、インスパイアされた折り感覚を試しに折っていたら、このライオンの後半身の原型に辿り着いたのです。

 その後半身を手にしたときに、すぐにたてがみのアイデアが浮かびました。使用したパターンはすでに頭の中の引き出しに持っていたもので、それを2つ並べて組み込んでいます。はじめのうちは頭の折り出しとの兼ね合いがなかなかつきませんでしたが、少しずつ変化させて今の形に落ち着きました。展開図を発表した『折紙探偵団』75号では、この辺の逡巡をそのまま書いていたりしますが、結局同テキストでType-2として紹介したものが決定版となりました。少し後ろから見たときにはカッコいいのですが、真正面から見てしまうとなんだか笑えます。

 さて、先に述べた「複雑化」については、周囲の折り紙状況の影響もありました。90年代の終わりごろより、神谷哲史さん、北條高史さんが「龍神」「暫」といった大作を発表し、「スーパーコンプレックス折り紙」の閾値がどんどん上がっていくような動きがありました。それがいたずらな複雑化にとどまるものではないことは、作品のクオリティを見れば明らかなのですが、一体どう言語化して捉えたらいいのだろうとつい考えてしまうわけです。ちょっとおおげさかもしれませんが、表現としての折り紙造形の姿が別のフェーズへと移っていくような感覚がありました。

 その際に私の中でヒントになったのは、『折紙探偵団新聞』で連載していた「折り紙という方法」の中で北條さんが書かれた「空間的表現」というコンセプトです。同コンセプトを分かりやすく説明するのはなかなか難しいのですが、それまで多くのコンプレックス作品がその複雑性(というか紙の重なり具合)を「閉じ込める」ような造形であったのに対し、逆に外に向かって開放させることで、複雑性とともに「紙」という素材をさらに強調していくスタイル、とでも表現できるでしょうか。

 そんなわけで、ライオンのたてがみは私なりに理解した空間的表現の実践の試みでもありました。もともと私の持っていた「腹割れ」のスタイルとの相性が良かったこともあり、紙内部から折り出した構造を曲面としてうまく造形することができたと思います。このようなたてがみ表現のアイデアとしては、宮島さんが『をる』に発表していた「ライオン(96年バージョン)」がすでにありましたが、それに対してのアンサーという意識もありましたね。

 しかし、そんなたてがみよりも気に入っているのが、実は尻尾の先です。「ペンギン」の頭部と全く同じ構造がうまくハマって、これは大成功でした。通常は「仕上げ」で行うような範囲の造形を、構造的に埋め込んで処理するというのも、複雑化の流れを自分にひきつけて考えたときに得られたひとつの指針でした。