キリン / Giraffe

2003/8/30公開、2006/3/2写真入替・解説追加

キリン写真

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作品情報

解説

 創作レポートはこちらです。

 この作品については、上にリンクしている創作レポートや、展開図を発表した『折紙探偵団』82号と、結構いろいろ書いてきて、改めてここで書くことはそうないかなとも思ったのですが、やはり私にとって重要な作品であるので、もう少し大きな視点から振り返ってみたいと思います。

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 「リス」以降、私が追求してきた折り紙のスタイルの根源にあるのは、前川淳さんが『ビバ!おりがみ』で発表した折り紙設計の方法論です。私なりに理解したところをごく短くまとめてみるならば、「直角のm/n(m, nは自然数、2≦n、1≦m≦n)の角度のみを持つ直角三角形(ビバでは「図形の原子」とか「最小単位」とか表現されてます)によって平面を埋め尽くせる」となります。もう少し分かりやすく言い換えると「直角の1/nの角度で交差する直線群によって平面を秩序的に分割できる」となるでしょうか。

 『ビバ』は読んだことがないし上のまとめもよく分からないという方には、言葉で説明するより図を見たほうが早いかと思います。

22.5度の前川紙

 上は「22.5度=直角の1/4」を基準にして平面を構成したものですが、いやいや美しいですね。角度を制限することで、このようなパターン(川崎敏和さんは「前川紙」と呼んでいます)が作られることが分かれば、折り紙するにあたっての理解としては十分だと思います。

 上の図で、線で囲まれてできる様々な多角形に注目してみてください。同じ形がいろいろな大きさで繰り返し現れていることが分かります。つまりどういうことかと言うと、スケールが相対化されるわけです。このような前川紙パターンを「折り線の下地」として考えることで、全く同一の方法論を様々なスケールで使いまわせることができるというところが創作的なポイントです。これにより、際限なく細かく折っていけることがあらかじめ保証されて、「悪魔」のような、コンプレックス作品を作ることができるわけです。また、少し大きなレベルから見ると、「パーツの埋め込み」として、例えば「片手」という作品を「悪魔」の手として使うといった方法に発展します。

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 角度を制限することで秩序だった折り線パターンを得られる。このことを折り紙創作に生かした――というより、折り紙の背後にそのような秩序がすでにあったと指摘したのが、前川さんの大きな功績なのだと思います。

 その指摘と同時に、それまでの折り紙が45度か22.5度という限られた世界に偏っていたことが明らかになったわけです。最小角度が、30度(直角/3)・18度(直角/5)・15度(直角/6)だとしても、それは平面を整然と分割して、折り紙創作に応用できるだろう、と。『ビバ』での、作品としての実践は「銘々皿」から「変化おりづる」までで示されたごくシンプルなもので、本格的なそれは『トップおりがみ』所収の「ヤンバルクイナ」が初であったと思います。もっとも私が初めて「ヤンバルクイナ」を折ったときはまだ小学生だったので、「なんだか折り始めが不思議な作品だなあ」くらいの感想しかありませんでした。「前川紙」の世界を意識したのは、もっと後になってからです。

18度の前川紙

15度の前川紙

 さて、実際に線を引いてみるとこんな感じで、上が18度、下が15度の「前川紙」の一例です。角度が小さくなると最小単位の数が増え、それに伴って交点の発生パターンも22.5度に比べるとかなり複雑になっていますが、よく見ると要所要所で線が交わってきていることが分かると思います。

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 「リス」以降の私は、「前川紙」の折り線のみでどこまで対象の形を作ることができるか、ということを追求していると言っていいと思います。合目的的でなしに追求すること自体への興味も大きいのですが、表現上の利点を認めているからでもあります。主なメリットとしては、角度を制限することによって折りやすさを得られたり、幾何学的な面白さを出したりということが挙げられます。

 また、「前川紙」の視点は、平面上の全てを同一に扱っているという点で、紙という素材の「等質性」を浮かび上がらせるものでもあるのではないかと考えています。このことは、私が「折り紙分子」的な発想を極力排して作品を作ろうとしていることにも繋がっていて、紙を部分に切り分けて考えず、全体をひとつの大きな規則を基にして構成することにより、「不切・一枚」の意味を見出せないかと考えているわけです。そういう意味で、「パンダ」「カワセミ」は、自分の中では毛色の異なる作品と捉えています。

 以上は、もちろん、個人的な考えであって、「折り紙なら/不切一枚ならこうあるべき」という主張ではありません。自分の作品や他の人の作品を色々な角度から見て、どのような意味づけを持たせられるかと考えた結果です。ある意味、理論武装とも言えるかもしれませんが(笑)、多くは自分が納得するためです。私にとって折り紙は、ある程度の理屈(コンセプトと言えば良いのかな)がないと作りにくいものだったりするので。そのことは、一作品ごとに長々と解説を書き連ねていることからもとうに自明でしょうか。

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 というわけでこの作品は、数年前から大きな課題としてあった「22.5度以外の角度への挑戦」の初めての成果でした。不満な点は多々ありますが、折り図を描き終わった今は、工程含めてなかなか好きな作品です。

 ところで、この後しばらく15度をいじってみたのですが、次の「ねずみ」ができてから後、また22.5度の創作に戻ってしまいました。時々は試していきたいと思っていますが、創作ペースのことも考えると、まだ15度は自分にとって敷居が高い感じがしています。

 でも、こんな体たらくの私の代わり(?)に、西川誠司さんが15度にはまっているそうで、近年いくつも作品を作られています。なんでも本作がきっかけになったとのことでとてもうれしいですね。それだけでもこの作品を創作した甲斐があったなあと思う次第です。